「宮廷女官チャングムの誓い」は、だれもが認める韓国歴史ドラマの最高峰です。
このドラマを演出したのは、イ・ビョンフンという方で、韓国では「時代劇の巨匠」などと言われていて、他にも多くの時代劇ドラマを演出し、高い評価を受けています。
イ・ビョンフン「韓国時代劇の巨匠」
(Kstyle https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=1982998より画像引用)
イ・ビョンフン(ハングル:이병훈、李丙勳 )
1944年生まれ 忠清南道燕岐郡(世宗特別自治市)出身。
主な演出作品
『朝鮮王朝五百年』(『暴君 光海君』『南漢山城』以外の全作品、一部共同監督)(1983年-1990年・MBC)
『ホジュン 宮廷医官への道』(1999年・MBC)
『商道』(2001年・MBC)
『宮廷女官チャングムの誓い』(2003年・MBC)
『薯童謠』(2005年・SBS)
『イ・サン』(2007年・MBC)
『トンイ』(2010年・MBC)
『馬医』(2012年・MBC)
『オクニョ 運命の女』(2016年・MBC)
(Wikipedia「イ・ビョンフン」の項より引用)
朝鮮王朝史を彩るテーマ設定
彼の代表作を観た人なら気が付いていることですが、作品ごとに物語のキーファクターを設定し、そのキーファクターが物語の骨格をなし、また物語の推進力を生む大切な要素になっています。
そして、それらは彼の諸作品の舞台である朝鮮王朝時代を飾る文化的事象であり、ドラマ全編を通じて画面を彩るものでもあります。
「宮廷女官チャングムの誓い」=料理、医術 (全54話)
(youtube「チャンネル銀河」より転載)
ここから、ネタバレごめんなさい!
前半は「料理」
スラッカン(水刺宮)(王と王族の食事を受け持つ厨房)に勤め、政略の犠牲となって死んだ女官の一人娘チャングムが母の無念を晴らすため幼くして宮廷に入り、権力闘争の中で自分を見失わず、信念を貫き復讐のため奮闘していく。
劇中で水刺宮での調理シーン、色とりどりの食材、料理の数々が頻繁に劇中を彩る。
(チャングムで一番大好きなエピソードについての記事はこちらです。)
後半は「医術」
ハン尚宮の死後、一人になったチャングムは流刑先で師匠となる医女に会い、医学の道を志す。
彼女の下で医学を学び、宮廷に医女となって再び戻り、復讐を成就する。
「イ・サン」=絵画 (全77話)
(youtube「チャンネル銀河」より転載
主人公ソンヨンが幼い頃市中で王世孫となるイ・サンと出会い、親友となる。
ソンヨンは幼少時から絵の才能に優れ、宮中の記録画(当時は写真技術がないので、絵で行事や生活様式を記録する)を制作、保存する部署「図画署」に勤めることになる。
成長とともに宮中で世子と運命の再会を果たし、愛を育む。
イ・サンが王から譲位を告げられた時、サンが亡き父・思悼(サド)王世子から預かった絵に、父が政争に巻き込まれ無念の死を遂げた真相が隠されており、その謎をソンヨンが解き明かす(第38話)。
「トンイ」=音楽 (全60話)
(youtube「チャンネル銀河」より転載)
主人公トンイは出自を隠し、宮廷行事で音楽を担当する部署「掌楽院」に勤める。
幼い頃、宮廷の権力争いで殺された要人が瀕死の状態で見せた謎の手の合図の意味が、実は「楽記」(南人派が重視している音楽の楽典)に関わっていることを、トンイ自身が突き止める(第41話)。
後半からエンディングに向けてのスピード感
特に、「イ・サン」と「トンイ」では、ともに物語後半に入った辺りで、前述の謎解きのくだりが出てきます。
この「後半に入った辺り」というのが実に絶妙な演出だと思います。
もちろん両者とも60話以上の長編でありながら、最後までまったく飽きさせない魅力をもつドラマです。
もともとドラマ鑑賞において、物語も30話も過ぎると、視聴者はドラマの船に乗っかって安定した流れの中にいて、ある種落ち着いたテンションの中にいます。
そこにこの謎解きの展開を持って来ることで、ぐっとエンディングに向かってキーファクター(「絵画」「音楽」)が物語をこれまでにないスピード感で引っ張り始めます。
まるで視聴者は滑降するジェットコースターに乗っているような加速感の中で、「あー、これは「絵画(音楽)」のドラマなのだ!」と再実感するのです。
この後半の加速感が、イ・ビョンフン作品の魅力なのかもしれません。
「トンイ」以降の作品にもキーファクターがあります。
「馬医(バーイ)」では医術のなかでも当時タブーとされていた『外科手術』を初めて手掛けた御医(王の主治医)としてのペク・クァンヒョンを描き、「オクニョ(運命の女)」では、あえて言えば民衆の立場に立った制度としての『裁判』、でしょうか。
(もっと違う意見があればどうぞ教えてください!)
彼のほとんどの演出作品は、実際の朝鮮王朝史が舞台になっていて、主要な登場人物のほとんどが実在する人間ではあります。
しかしその中でも主人公となるキャラクターが伝説の人物だったり(チャングム)、まったく架空の人物だったり(「オクニョ」)、また歴史に大胆な解釈がされていて、歴史の専門家からすると史実に忠実ではない、という意見が多いようです。
歴史を舞台として、なおかつ視聴者を魅了するエンターテイメント・ファーストの作品であることが、イ・ビョンフン作品群の一番の魅力だと、観れば観るほど思うのです。
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